堀田善衛『ゴヤ』全4巻セット (集英社文庫)

堀田善衛の傑作『ゴヤ』全4巻セット：苦悩と狂気の巨匠を描き出した名作

堀田善衛による歴史小説の傑作『ゴヤ』は、スペインの伝説的な芸術家フランシスコ・ゴヤの生涯と作品を鮮やかに描き出した4巻の壮大な物語です。集英社文庫版のこのセットは、ゴヤの芸術的功績と彼の時代を揺るがした激動の歴史の中で葛藤した苦悩の魂を余すところなく伝えています。

芸術と狂気の融合

『ゴヤ』では、ゴヤの芸術的才能の初期からその終焉までを丹念に追います。若い画学生としての素朴な風景画から、戦争や暴力の残忍さを痛烈に描いた後のマドリード市民たちの様子まで、ゴヤの作品はスペインの歴史と社会を反映した鏡となります。

しかし、ゴヤの芸術は単なる写実的描写を超越しています。彼の作品は狂気的であり、幻想的で、しばしば悪夢のようなビジョンに満ちています。幻想の怪物やグロテスクな人物が、彼のキャンバスに躍動し、彼の心の闇を垣間見せます。

歴史の渦中で

『ゴヤ』は、ゴヤの芸術が生まれた激動の時代を描いてもいます。スペイン革命からナポレオン戦争まで、ゴヤは激動の時代を生き、その目を通して歴史を目撃しました。彼は王族や政治家に近づき、彼らの傲慢さと残酷さに憤りを感じました。

ゴヤの作品は単なる芸術ではなく、時代に対する抗議であり、人間の愚かさの告発ともなりました。彼の絵画は、戦争の恐怖、専制政治の抑圧、人間の破滅への衝動を描き、見る者に衝撃と不快感を与えます。

苦悩する魂の告白

ゴヤが芸術と狂気の狭間で苦悩した人物であることは明らかです。彼の作品には、彼の内面の葛藤、信仰の危機、そして死への恐怖が明らかになっています。しかし、彼の苦悩は同時に、人間存在の普遍的な真理を表現しています。

『ゴヤ』は、苦悩する芸術家の魂の告白であり、人間の創造性、破壊性、そして狂気への可能性について考えさせられます。堀田善衛の巧みな文章と歴史に対する深い理解により、ゴヤの生涯と作品が生き生きと蘇り、読者を魅了します。

全4巻セットの内容

この全4巻セットには、ゴヤの生涯を網羅する4冊の小説が収録されています。

1. サン・アントニオの奇跡：ゴヤの初期の生活と芸術的出発点を描き、狂気と幻想の兆候が初めて現れます。
2. 裸のマハの眼差し：マドリードでのゴヤの栄光と没落を記録し、スペイン革命とナポレオン戦争の恐怖を描きます。
3. わが闘争：ゴヤの晩年を描き、彼の内面の葛藤、信仰の危機、そして死への葛藤を浮き彫りにします。
4. グレート・カプリチョスの夢：ゴヤの芸術的遺作であるグレート・カプリチョス版画のコレクションを考察し、彼の狂気と人間性の闇への下降を示します。

芸術、歴史、そして人間の魂の探究

堀田善衛の『ゴヤ』は、芸術、歴史、そして人間の魂の探究の傑作です。ゴヤの苦悩する魂を通して、私たちは人間の創造性と破壊性、そして狂気への可能性について深く考えさせられます。

集英社文庫版のこの4巻セットは、ゴヤの芸術と生涯を余すところなく理解するための貴重なリソースです。芸術愛好家、歴史家、そして人間存在の謎に魅了されるすべての人にとって必携の書です。

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