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おかしゅうて、やがてかなしき 映画監督・岡本喜八と戦中派の肖像 (集英社新書)

表題おかしゅうて、やがてかなしき:戦中派映画監督・岡本喜八の生涯

はじめに

映画監督・岡本喜八の生涯は、激動の昭和史とシンクロするように展開された。敗戦直後の混乱から高度経済成長期、そして高度格差社会へと移り変わる時代の中で、彼の作品は社会の病理を鋭く抉り出し、人々の心に訴えかけてきた。

集英社新書の『表題おかしゅうて、やがてかなしき』は、戦中派の代表的な映画監督である岡本喜八の生涯と作品を丹念に追ったノンフィクション作品だ。著者の映画評論家・佐藤忠男氏が、膨大な資料を駆使し、岡本喜八の波瀾万丈な人生と、時代と深く関わり合った映画制作の軌跡を描き出している。

戦中派の肖像

岡本喜八は、1924年に東京で生まれた。戦時中は海兵隊に入隊し、海軍特攻隊の予備要員として終戦を迎えた。戦後は、戦災復興庁の職員として働きながら、映画制作を志すようになった。

『戦艦大和』(1953年)でデビューした岡本喜八は、その後、『独立愚連隊』(1959年)、『ああ爆弾』(1964年)、『肉弾』(1968年)などの戦争映画を発表した。これらの作品は、戦中派ならではの視点から戦争の悲惨さと愚かさを描き、当時の日本人に大きな衝撃を与えた。

反戦映画の巨匠

岡本喜八は、単なる戦争映画の監督ではなかった。彼の作品は、戦後の日本社会の矛盾を鋭く批判する反戦映画でもあった。

『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971年)では、沖縄戦の悲劇を描いた。『日本のいちばん長い日』(1967年)では、終戦前夜の日本の支配層の混乱ぶりを皮肉たっぷりに描き出した。

岡本喜八の映画は、常に権力や体制への批判精神に貫かれていた。彼は、社会の欺瞞と不条理を暴き出し、人々の良心に訴えかけた。

ユーモアのセンス

岡本喜八の映画の特徴の一つは、ユーモアのセンスだ。シリアスな戦争映画や社会派作品の中で、彼は絶妙なタイミングでユーモアを織り交ぜた。

例えば、『激動の昭和史 沖縄決戦』では、沖縄戦の最中に米軍の攻撃機がジャガイモ畑に突っ込むシーンがある。その瞬間、岡本喜八は「爆撃機同士の空中衝突かと思いきや、ジャガイモ畑への突っ込みだった」という字幕を入れた。

このユーモアは、重苦しい戦争映画を救い、観客の心を和ませる働きをしている。岡本喜八は、ユーモアを通じて、戦争の悲惨さをより深く伝えることに成功した。

晩年の葛藤

1970年代以降、岡本喜八は時代劇やテレビドラマの制作にも取り組んだ。しかし、晩年は資金難や病気に苦しみ、思うような作品が作れなくなっていった。

そんな中でも、岡本喜八は映画制作への情熱を失わなかった。彼は、戦後日本の歴史を振り返る大作映画『人間の証明』(1977年)を企画していたが、実現することはなかった。

1993年、岡本喜八は70歳でこの世を去った。彼の遺作となったのは、戦後50年を記念して制作されたドキュメンタリー映画『戦争と人間』(1991年)だった。

時代を映し出した映画監督

岡本喜八の映画は、激動の昭和史を生き抜いた戦中派の精神性を色濃く反映している。戦争の悲惨さ、社会の矛盾、人生の無常感。彼が描いたテーマは、今もなお私たちに問いかけている。

『表題おかしゅうて、やがてかなしき』は、岡本喜八の生涯と作品を通じて、戦後日本の歴史を振り返る貴重な一冊だ。映画ファンはもちろん、日本の戦後史や社会問題に興味がある人にも強くお勧めする。
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