
相模原事件・裁判傍聴記「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ
衝撃の事件から見えてくる、ある殺人犯の歪んだ心理と憎悪の根源
2016年、神奈川県相模原市にある障害者施設「津久井やまゆり園」で、19名の入所者が殺害され26名が負傷するという痛ましい事件が発生した。この事件は、日本社会に衝撃を与え、障害者への偏見や差別が根深く存在しているという現実を浮き彫りにした。
同事件の裁判では、殺人などの罪に問われた被告人・植松聖(当時26歳)が死刑判決を受けた。この裁判を傍聴したジャーナリストの関根健次氏は、その詳細を克明に記録した著書「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ」(岩波書店)を上梓した。
本書は、裁判傍聴記という形式をとりながら、植松聖の生い立ち、犯行に至るまでの経緯、そして裁判での証言や弁護側の主張を丹念に追っている。その過程で、植松の歪んだ心理と障害者に対する深い憎悪の根源が浮き彫りになっていく。
「役に立たない」という呪縛
植松聖は、幼少期から「役に立たない」と周囲から言われ続けたという。勉強もスポーツも苦手で、将来の夢も持てなかった。その劣等感と無力感は次第に膨らみ、やがて「役に立たない」人間は生きる価値がないという歪んだ考えに陥った。
学校を卒業後、植松は自衛隊に入隊するが、ここでも「役に立たない」烙印を押される。障害者への偏見も、この頃芽生えたようだ。自衛隊での訓練で障害者施設を訪問した際、「社会の役に立っていない」障害者たちを見て、強い嫌悪感を抱いたという。
憎悪から殺意へ
「役に立たない」人間に対する憎悪は、やがて殺意へと変貌を遂げていった。植松は、障害者は「社会の害悪」であり、「駆除すべき存在」であると考えるようになった。そして、自分こそが「障害者を駆除する者」であるという妄想に取り憑かれた。
2016年7月26日、植松は津久井やまゆり園に侵入し、入所者たちを次々と殺害した。犯行後、植松は「自分が障害者を殺せば、社会に貢献できる」と供述している。
「役に立ちたい」という偽りの動機
裁判の過程で、植松は「自分は障害者たちを苦しみから解放してあげたかった」と主張した。しかし、関根氏は、この主張が単なる「偽りの動機」であると指摘する。
植松の真の動機は、障害者に対する憎悪と、「役に立たない」という自己否定感による劣等感だった。殺人を犯すことで、自分は社会に貢献し、「役に立つ人間」になれると信じていたのだ。
障害者ヘイトの構造
本書は、相模原事件を通して、障害者ヘイトの構造についても深く考察している。関根氏は、障害者に対する偏見や差別は、社会に根深く蔓延しており、それが極端な場合には暴力へとつながりかねないことを警告している。
「障害者=役に立たない」という固定観念や、障害者に対する恐怖や嫌悪感は、社会の隅々にまで浸透している。このような偏見は、障害者たちを社会から排除し、生きづらさを強いることになる。
問われる社会の責任
本書は、相模原事件の悲劇を単なる一過性の事件としてではなく、障害者ヘイトが蔓延する社会の構造的な問題として捉えている。社会全体が、障害者に対する偏見や差別をなくすために、真摯に向き合う必要があると訴えている。
「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ」は、相模原事件の衝撃的な真実を明らかにしただけではなく、障害者を取り巻く社会の問題を深く掘り下げた貴重な一冊だ。障害者ヘイトの根源を探り、社会のあり方を問い直す上で、必読の書と言えるだろう。
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