
暗黒街の年代記:チャールズ・ブラント著『アイリッシュマン(上)』
チャールズ・ブラントの傑作ノンフィクション『アイリッシュマン』は、20世紀半ばのアメリカを揺るがせた実在のギャング、フランク・シーランの波瀾の生涯を描いた壮大な叙事詩である。上巻では、シーランの貧しい子供時代から、第二次世界大戦での軍歴、そして悪名高いフィラデルフィアの犯罪組織への入団までが克明に綴られる。
貧しい始まり
1920年、アイルランド系の移民であるトーマス・シーランとメアリー・シェイの間に、フランク・シーランはペンシルベニア州フィラデルフィアで生まれた。大不況の真っ只中で、家族は貧しい暮らしを強いられていた。フランクは幼い頃から喧嘩早いことで知られ、早くから犯罪の世界に触れるようになった。
軍隊での鍛錬
1941年、真珠湾攻撃を受けてアメリカが第二次世界大戦に参戦すると、シーランはアメリカ陸軍に入隊した。ヨーロッパ戦線で戦った彼は、ずば抜けた射撃技術と冷酷さで評判を得た。この経験は、後の彼の犯罪者としてのキャリアに大きな影響を与えることになる。
犯罪組織への入団
戦後、シーランはフィラデルフィアに戻り、犯罪組織のボス、ラッセル・ブファリーノとつながった。ブファリーノの右腕となったシーランは、殺し屋、強盗、賭博などの犯罪行為に深く関与するようになった。
ジミー・ホッファの失踪
シーランの最も悪名高い犯罪は、1975年の労働組合指導者ジミー・ホッファの失踪である。ホッファは全米トラック運転手組合の強力な会長だったが、組織を支配しようとする犯罪組織との対立を深めていた。シーランは、ブファリーノの命令でホッファを殺害したと自白している。
魅力的なキャラクター
『アイリッシュマン』の最も印象的な点の一つは、フランク・シーランという魅力的なキャラクターの描写だ。シーランは冷酷で暴力的な男だが、同時に複雑で傷ついた人間でもある。ブラントは、シーランの暴力性と彼の人間性を巧みに織り交ぜ、読者に彼に対する共感と反発の両方を抱かせる。
詳細な調査
『アイリッシュマン』は、膨大な調査に基づいて書かれている。ブラントは、シーラン本人や、シーランの仲間や捜査官など、数十人にインタビューを行った。また、法廷記録やその他の記録を綿密に調べ、シーランの生涯について正確かつ詳細な記録を作成した。
マフィアの内部世界への扉
『アイリッシュマン』は、第二次世界大戦後のアメリカの犯罪組織の内部世界を垣間見させてくれる貴重な作品である。ブラントは、犯罪組織の序列、慣行、暗黙の了解など、マフィアの秘密の仕組みを赤裸々に暴露する。
マーティン・スコセッシ監督による映画
『アイリッシュマン』は、2019年にマーティン・スコセッシ監督によって映画化された。ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ、アル・パチーノという豪華キャストがシーランとその仲間たちを演じ、高い評価を得ている。この映画は、原作の複雑なキャラクターと示唆に富んだストーリーを見事に捉えている。
結論
チャールズ・ブラントの『アイリッシュマン』は、アメリカ犯罪史の必読作品である。フランク・シーランの波瀾の生涯を描いた壮大な叙事詩であり、読者に暗黒街の内部世界、複雑なキャラクター、そして実在の暴力事件の真実を突きつける。詳細な調査に裏打ちされた迫真の物語で、読者は最後のページまで釘付けになるだろう。
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